研究成果|Research Output

注目情報|Hot Topics

  • 2021.04.26雑誌論文|Journal papersNEW
    齧歯類のメタ認知を担う機能的神経回路の解明

    本領域B01行動生物班公募班代表である櫻井芳雄(同志社大学大学院脳科学研究科)らによる共著論文Contribution of non-sensory neurons in visual cortical areas to visually guided decisions in the rat(ラットの視覚誘導性意思決定における視覚皮質内非感覚性ニューロンの働き)が科学誌Current Biologyに掲載されました。

    <概要>

    齧歯類のメタ認知を調べるため、前年度までに知覚モニタリング課題(視覚刺激検出課題)を開発し、「見えたという意識」つまり視覚的メタ認知の有無によって、ラットが行動を選択できることをすでに報告した(Osako et al. 2018)。そこで今回、その視覚刺激検出課題を遂行中の神経細胞集団の活動を一次視覚野(V1)と後部頭頂皮質(PPC)から同時記録した(図1)。V1は視覚刺激が最初に到達する脳部位であり、PPCはそのV1から直接入力を受けている。同時記録した多数の神経細胞の活動を主成分分析(PCA)等の多様な方法で解析したところ、V1の視覚応答性細胞(sensory-neuron)が活動してもラットは光刺激を見逃すことがあった。また、V1とPPCに存在する視覚非応答性細胞(non-sensory neuron)が神経細胞集団の活動状態の変動(state fluctuation)に関わっており、V1におけるそのような活動状態の変動と刺激提示のタイミングが、視覚的メタ認知に基づく意思決定にバイアスをかけることがわかった(図2)。つまり視覚的メタ認知には特定の脳部位(責任部位)や神経回路が関わっているのではなく、視覚皮質の異なる部位にまたがる感覚性および非感覚性の神経細胞集団によるダイナミックな活動が関与していることが示唆された。


           
                
    論文:Osako, Y., Ohnuki, T., Tanisumi, Y., Shiotani, K., Manabe, H., Sakurai, Y. and Hirokawa, J. (2021) Visually guided decisions driven by distinct population computations with non-sensory neurons in visual cortical areas.

    掲載誌:Current Biology, 31:1-13. DOI: https://doi.org/10.1016/j.cub.2021.03.099

  • 2021.02.05雑誌論文|Journal papers
    エコーチェンバーの生成メカニズム                                             

    本領域C01創発構成班計画班の研究である笹原和俊(東京工業大学環境・社会理工学院)らによる共著論文「社会的影響と社会的切断がエコーチェンバーの創発を加速する」が、科学雑誌Journal of Computational Social Scienceに掲載されました。

    <概要>

    ソーシャルメディアは、誰とでもつながり、誰もが情報にアクセスすることを容易にする一方で、社会的影響と社会的切断のメカニズムを促進し、「エコーチャンバー」と呼ばれる分断・偏極したクラスターに我々を導く危険性がある。本研究では、オンライン・ソーシャル・ネットワークにおける情報共有に関するシンプルなモデルを導入し、社会的影響と社会的切断の2つの要素を導入することで、エコーチャンバーがどのような条件で出現するのかを研究した。ソーシャルメディアの利用者は、情報共有によって露出した情報に基づいて、自分の意見や社会的なつながりを変化させることができる。モデルのダイナミクスは、社会的影響力と社会的切断が僅かであっても、ソーシャルネットワークは急速に分離された同質なコミュニティへと進化していくことを示した。これらの予測はTwitterの実証データと一致していた。我々の発見は、ソーシャルメディアのメカニズムを考えると、エコーチェンバーはある程度避けられないことを示唆しているが、可能な緩和戦略についてのヒントも提供する。

  • 2021.02.05雑誌論文|Journal papers
    摩擦音[s]の構音におけるヒステリシスの発見 

    本領域B02人類進化班公募班代表である吉永司(豊橋技術科学大学)らによる共著論文Hysteresis of aeroacoustic sound generation in the articulation of [s]「[s]構音における空力音発生のヒステリシス」が米国科学雑誌Physics of Fluidsに掲載されました。

    <概要>

     摩擦音[s]は子音の一種であり、口腔内の舌と上顎の狭めから発生する気流の乱れにより発音することが知られています。また[s]構音時には、舌の先端を機敏に動かす必要があることから、子供は最後期に発音能力を学習・取得し、最も難しい音素の一種であることが知られています。

     本研究では、この[s]の構音に着目し、舌の運動を模擬した口腔モデルと空力音響シミュレーションにより、舌運動時の乱流の発生・消散と音の発生タイミングを調べました。口腔モデル内の舌はreal-time MRIにより計測した舌の運動速度で上下させ、咽頭部からの一様な呼気流のもと、どのように音が発生するのかシミュレーションを行いました。シミュレーションとしては、圧縮性流体のナビエ・ストークス方程式を、乱流の細かな渦を解像する大規模計算格子状で計算し、運動する舌を埋め込み境界法により表現しました。

     結果として、舌の挙上動作における発生音に比べて、舌の下降動作における発生音の方が大きく、この時、舌の上下動において気流と音の発生にヒステリシスが見られることが明らかとなりました。この結果は、[s]の構音における舌の上下動のタイミングと音の発生タイミングにずれがあることを示しており、[s]の構音動作に物理的な制約があることを示しています。我々のグループでは、この物理的制約が進化における構音の下位機能発達に関わっていると考えています。

    論文タイトル:Hysteresis of aeroacoustic sound generation in the articulation of [s]

    著者:Yoshinaga T., Nozaki K., and Iida A. 

    掲載誌:Physics of Fluids    DOI10.1063/5.0020312

  • 2021.01.29雑誌論文|Journal papers
    2020年度研究成果 ーB01行動生物班公募班代表 狩野 文浩(京都大学高等研究院 特定准教授)ー 

    *Brooks, J., *Kano, F., Sato, Y., Yeow, H., Morimura, N., Nagasawa, M., Kikusui, T., Yamamoto, S. (2021). Divergent effects of oxytocin on eye contact in bonobos and chimpanzees. Psychoneuroendocrinology, 125, 105119. (co-first/correspondence)
    *Kano, F., Sato, Y., & Yamanashi, Y. (in press). How chimpanzees look at movies: The “Art and Science” project in Kyoto City Zoo. Japanese Psychological Research.
    *Hopper, L. M., Gulli, R. A., Howard, L. H., Kano, F., Krupenye, C., Ryan, A. M., & Paukner, A. (2020). The application of noninvasive, restraint-free eye-tracking methods for use with nonhuman primates. Behavior Research Methods. In press.
    *Hepach, R., Vaish, A., Kano, F., Albiach-Serrano, A., Benziad, L., Call, J., & Tomasello, M. (2020). Chimpanzees' (Pan troglodytes) internal arousal remains elevated if they cannot themselves help a conspecific. Journal of Comparative Psychology. In press.
    *Kano, F., Call, J., & *Krupenye, C. (2020). Primates Pass Dynamically Social Anticipatory-Looking False-Belief Tests. Trends in Cognitive Sciences, 24(10), 777-778. (co-correspondence)

  • 2021.01.29雑誌論文|Journal papers
    鳥類における他言語理解 ―ヒガラはシジュウカラの警戒声から天敵の姿をイメージできる ―

    本領域B01行動生物班公募班代表の鈴木俊貴(京都大学 白眉センター 助教)による論文「Other species' alarm calls evoke a predator-specific search image in birds 鳥類における他言語理解―ヒガラはシジュウカラの警戒声から天敵の姿をイメージできる―」が米国生物学雑誌Current Biologyに掲載されました。

    <概要>

    多くの動物は天敵(捕食者など)に遭遇すると特別な鳴き声を発して警戒します。この鳴き声(警戒声)は、同種の仲間に危険を伝えるだけでなく、周囲に暮らす他種の動物にも警戒行動を促すことが知られています。本研究では、ヒガラが他種(シジュウカラ)の発するヘビ特異的な警戒声に反応する際、ヘビに似た物体への注意を特異的に高めることを実験的に確かめました。この結果は、ヒガラが他種の鳴き声から天敵のイメージを想起したことを示唆します。本研究は、発信者、受信者、指示対象の3項関係のコミュニケーションが、種を越えた「盗聴(eavesdropping)」の文脈においても生じることを明らかにした点で新規性があります。

    京都大学プレスリリース https://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research-news/2020-05-15

    ジャーナル名:Current Biology

    号・頁:30:2616-2620

    DOI: 10.1016/j.cub.2020.04.062

     

  • 2021.01.29雑誌論文|Journal papers
    2020年度研究成果 ーA01言語理論公募班代表 那須川 訓也(東北学院大学 文学部 教授)ー
    1. Nasukawa, Kuniya (2020)

    Linearisation and stress assignment in Precedence-free Phonology: The case of English. Radical: A Journal of Phonology 1, 239–291. ISSN 2592-656X

    統語構造研究において、併合により構築される構造に、構成要素の前後関係は符号化されていないと一般的に考えられてきた。本研究では、諸音韻現象の分析をもとに、音韻構造も統語構造と同様の方法で構築され、且つ、前後関係にかかわる属性を有していないと考え、そのモデルのもと、音韻階層構造上の依存関係のみを対象として働く音声解釈原理の存在を仮定した。そして、英語の音韻データを分析しながらその原理のもとで働く音声具現化の仕組み(線形化規則と強勢付与規則)の妥当性について、言語能力と言語運用の相互作用の観点から論じた。その結果、音韻構造における回帰的階層構造のみならず、統語構造と音韻構造を統一的に具現化する仕組みの実在性の高さを示した。

    1. Nasukawa, Kuniya (2020)

    Lexicalising phonological structure in morphemes. Acta Linguistica Academica 67(1), 29–38. DOI: 10.1556/2062.2020.00003

    近年、心的レキシコン内の音韻特性を解明するための表示モデルが多数考案され、研究目的に合わせた表示モデルの選定が難しい状態となっている。そこで、本研究では、(i) 回帰的階層構造の有無、(ii) 構成素の前後関係特性の有無、(iii) 語彙化前・後段階における構造構築過程の仕組みの相違、といった観点から、存在する音韻表示モデルをA、B、C、Dという4種類に分類し、それぞれの特徴を明らかにした。その上で、Dである非時系列音韻モデル(Precedence-free Phonology)が、音韻現象および音声にかかわる言語表現生成過程を、形態・統語分析と同様の仕組みによって唯一分析できるモデルであることを明らかにした。

  • 2021.01.28雑誌論文|Journal papers
    求愛の「拒否」から「受容」へと行動を切り替える神経機構を発見The discovery of a neural switch that changes “rejection” to “acceptan

    本領域B01行動生物班公募班代表である上川内 あづさ(名古屋大学大学院理学研究科)らによる共著論文 A feedforward circuit regulates action selection of pre-mating courtship behavior in female Drosophila 「ショウジョウバエ雌の交尾前の性行動選択を制御するフィードフォワード神経回路」が、科学誌Current Biologyに掲載されました。

    <概要>

    多くの動物でメスは、オスの求愛アプローチに対して即座には交尾を許しません。メスは、求愛を拒否しつつ距離をとり、配偶相手の候補を充分に評価したのちに、交尾を受け入れるようになります。本研究では、ショウジョウバエのメスにおいて、この交尾前の拒否から受容に行動を転換する過程に必要な脳の神経回路を特定し、その機能を制御する分子群を明らかにしました。メスに受け入れてもらうためには、オスは何度拒否されても、あきらめずに求愛を持続することが大事ですが、今回発見した神経回路と制御分子群の働きからも、継続的な求愛の必要性が示されました。また、この神経機構は、我々、哺乳類のつがい形成に関わる脳の神経機構に類似していることも判明しました。ショウジョウバエを配偶行動の進化や本能行動の行動選択を理解するための研究モデルとして利用する、という本研究戦略を発展させることで、社会的絆形成などを担う普遍的な脳の分子神経基盤の解明にもつながると期待できます。

     

     

    論文:Hiroshi Ishimoto, Azusa Kamikouchi (2020)

    “A feedforward circuit regulates action selection of pre-mating courtship behavior in female Drosophila

    掲載誌: Current Biology, 30: 396-407.e4.

    DOI: https://doi.org/10.1016/j.cub.2019.11.065.

     

  • 2021.01.26雑誌論文|Journal papers
    ヒトとチンパンジーにおける二次元平面上への物の配置

    本領域B02人類進化班分担者である林美里(日本モンキーセンター)らによる共著論文Object sorting into a two-dimensional array in humans and chimpanzees「ヒトとチンパンジーにおける二次元平面上への物の配置」が科学雑誌Primatesに掲載されました。

    <概要>

    ヒトの認知発達を調べるために、2つの皿に物を配分するなどの課題がおこなわれてきました。7~9歳のチンパンジーと2~5歳のヒトの子どもを対象とした縦断的な対面場面において、比較認知発達の視点から物の配置課題をおこないました。二次元平面上(3×3のマス目のついた箱)に、色と形の異なる9個の積木を自由に配置する際に見られたパターンを記録しました。チンパンジーでは、あらかじめ手がかりが与えられた場合、24~43%の試行で、色や形が同じカテゴリーの物を行や列に分類して配置するパターンが見られました。最年少のヒトの子どもでは、9個の積木をすべてマス目に分配して配置することができませんでした。2歳を超えると、一対一対応ですべてのマス目に積木を配置できるようになりましたが、配置のパターンはランダムなままでした。その後、カテゴリーによる分類的な配置が増えていき、4歳で分類配置がもっとも多くなりました。それ以降、ヒトの子どもでは、ラテン方格のように行列が完全に均等になるような配置が見られるようになりました。この均等配置は4歳半以降に出現することから、分類配置よりも認知的に負荷が高いと考えられ、チンパンジーでは観察されませんでした。分類配置に使われた手がかりを調べると、年少のヒトの子どもでは形の手がかりがよく使われていましたが、チンパンジーと年長のヒトの子どもでは色と形の両方が手がかりとして使われていました。ヒトとチンパンジーが自発的なルールにもとづいて物を操作し、カテゴリー的な分類配置をおこなう基礎的な認知能力を共有していることが示唆されました。

    論文タイトル:Object sorting into a two-dimensional array in humans and chimpanzees.

    著者:Hayashi, M., & Takeshita, H.

    掲載誌:Primates, 62, 29-39 DOI: 10.1007/s10329-020-00850-1

     

  • 2021.01.26雑誌論文|Journal papers
    鳴禽類における音素時系列獲得における統計的学習

    ーB01 行動生物班 和多和宏(北海道大学 大学院理学研究院 生物科学部門 准教授)

    歌鳥は、学習によって時系列的に配列された離散的な音響要素(「音素」)を獲得します。これまでに音素の音響構造の学習は広く研究されてきましたが、音素時系列学習については十分な研究がなされてきいませんでした。我々はカナダ マクギル大学のSakata博士の研究グループとの共同研究によって、ジュウシマツ(Lonchura striata var. domestica)を用いて、歌発達過程における音素時系列学習がいかになされるのかを明らかにすべく研究を行いました。その結果、音素のレパートリー・出現率・音素間遷移などにおいて、若鳥が歌学習モデル中の配列統計確率に沿って有意に学習することが分かりました。例えば、音素配列中の「分岐点」(複数の種類の遷移が続く比較的複雑な配列)での音素間遷移の出現確率は、歌モデルと若鳥が獲得した歌の間で有意な相関を示しました。また若鳥にとって遺伝的に無関係な家系由来の歌をモデルとして聴かせても、同様の結果を得ました。さらに、歌モデルと若鳥が最終的に獲得した音素時系列配列における類似性の程度と忠実度は、歌モデル中の配列特性によって有意に予測されました。これらの結果は、発声学習には統計的学習の特徴が存在することを支持し、今後の発声時系列学習制御する神経メカニズムを理解につながることが期待できます。

    James LS, Sun H, Wada K, Sakata JT.

    Statistical learning for vocal sequence acquisition in a songbird.

    Scientific Reports 10:2248. 2020

    doi: 10.1038/s41598-020-58983-8.

     

  • 2021.01.26雑誌論文|Journal papers
    2020年度研究成果 ーB01行動生物班公募班代表 本間光一(帝京大学薬学部教授)-

    1.Blockade of muscarinic acetylcholine receptor by scopolamine impairs the memory formation of filial imprinting in domestic chicks (Gallus Gallus domesticus)

    Naoya Aoki, Toshiyuki Fujita, Chihiro Mori, Eiko Fujita, Shinji Yamaguchi, Toshiya Matsushima, Koichi J. Homma

    Behavioral Brain Research 2020;379:112291. DOI: 10.1016/j.bbr.2019.112291

    離巣性の鳥類に見られる親子刷り込みは、早期学習における記憶形成を研究する有効なモデル系の一つです。私たちは、就巣性鳥類の音声模倣学習の獲得初期課程にも刷り込み様記憶が潜んでおり、言語獲得に重要な役割を果たしていると考えています。今回、孵化直後のニワトリヒナを用いて、刷り込みに必須である大脳IMM領域にムスカリン系アセチルコリン受容体阻害剤(スコポラミン)を刷り込みトレーニング前に注入したところ、刷り込みが阻害されることを見出しました。また、IMM領域におけるムスカリン受容体のサブタイプ3の存在を、イムノブロッティングと免疫組織染色法によって示しました。これらのデータは、アセチルコリンがIMM領域のムスカリン受容体サブタイプ3に作用することで、刷り込み記憶の形成に関与することを示唆しています。

    2.The dorsal arcopallium of chicks displays the expression of orthologs of mammalian fear related serotonin receptor subfamily genes

    Toshiyuki Fujita, Naoya Aoki, Chihiro Mori, Eiko Fujita, Toshiya Matsushima, Koichi J Homma, Shinji Yamaguchi

    Scientific Reports 2020;10(1):21183. DOI: 10.1038/s41598-020-78247-9

    恐怖とは、脅威に対して防御行動を引き出す適応的な感情の一つです。哺乳類では、セロトニン受容体(5-HTR)が扁桃体基底外側部(BLA)の恐怖関連神経回路を調節することが知られています。一方、鳥類では、脳での5-HTRの発現分布はほとんど報告がなく、恐怖関連の行動に関与する5-HTRは不明でした。私たちは、哺乳類BLAで発現する7種類の5-HTR遺伝子群がすべて、孵化直後のニワトリヒナ大脳の背側弓外套で発現していることを見出しました。この結果から、背側弓外套のセロトニン作動性調節が、鳥類の恐怖関連行動の調節に重要な役割を果たしていることが考えられました。